コンサート感想|絵本朗読コンサートシリーズ2021『あらしのよるに』

2021.10.21


公式サイトより)

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感想

 千葉市美浜文化ホールが主催する「絵本朗読(読み聞かせ)コンサート」シリーズの第8回公演、『あらしのよるに』(きむらゆういち作、あべ弘士絵、講談社刊)を鑑賞した。冒頭の嵐のシーンから音楽が迫力を持って迫って来つつも、単なる情景描写で終わらず、現代性のある音楽と芯のある物語性がしっかり融合している舞台作品となっており感服した。

 私は、本コンサートシリーズの作曲家である木村裕氏の作品を過去にも鑑賞しており「途切れない音楽を好んで構成する作風」という印象を持っていた。それはこの絵本朗読シリーズだけでなく、木村氏の他の作編曲作品でも比較的多く見られるケースだと感じている。だが今作では全休が効果的に使われ、朗読と音楽との一体感がこれまで以上に強かった。音楽による演出が物語を引き立てており、非常に面白かった。

 たしか雷が光る前のシーンだったと思う。ヴィオラからチェロへとフレーズを受け継いでいく場面には心を掴まれた。私は『あらしのよるに』の原作本を過去に読んだことがありストーリーは知っていたが、まるで初めて読んだときのように涙腺が緩む場面がたびたびあった。まさに音楽の効果である。

 オオカミのガブとヤギのメイの間に友情が成立してからは3拍子。まさにワルツ風の「ズン - チャッ - チャ」のリズムが印象的だ。しかしワルツが単調に続くのではなく、二頭が友情を深めながら夜明けへと時間が経過するなかで音楽も変化していく。その様子と描写が非常に凝っている音楽であった。

 夜が明けてからの音楽は4拍子に戻っているように聞こえた。暖かさに満ちた4/4拍子(もしくは2/2拍子のアラブレーベ)。そうした変化が巧みにドラマ性を演出しており、日の出にふさわしい構成であった。(:後日、木村氏に伺ってみたところワルツに入ってからエンディグまでずっと3拍子であるそうだ。聴覚上、2拍子または4拍子にも感じられる巧妙な仕掛けがなされたスコアなのであろうと思われる)

 あたかも映画のスタッフロールのように、朗読劇のエンディングが音楽によってしっかり構成されていたのも良かった。エンディングを聴きながら私は「これは原作の作家の方にも聴いていただきたい。納得の完成度だと思う」と考えていたところ、演奏後、その期待に応えるかのように原作者のきむらゆういち氏が登壇したことに驚いた。

 私が鑑賞した夜の部のコンサートでは、前半はピアソラ生誕100年を記念するピアソラ作品によるプログラム構成。こちらも好演であった。

〈おわり〉


絵本朗読コンサート2021「あらしのよるに」

公式サイト

概要

【日程】2021年10月21日(木)①親子コンサート開場14:30 開演15:00(16:15終演予定)
②大人コンサート開場17:30 開演18:00(19:30終演予定)
【会場】千葉市美浜文化ホール2F音楽ホール
【料金】①親子コンサート 大人2,000円 小学生以下1,000円 親子ペア2,500円 ※3歳未満ひざ上無料、座席必要な場合は有料 ②大人コンサート 大人2,500円 小学生以下1,500円 大人ペア4,500円 ※就学前児の入場はご遠慮ください

千葉出身の演奏家・作曲家たちがお届けするファミリー向けコンサート「絵本朗読コンサート」。 第8弾となる絵本は、映画や舞台演劇など様々な形で上演されている名作「あらしのよるに」に決定!素敵な音楽とともに絵本の世界をお楽しみください!
会場:東京文化会館小ホール

出演

山岸努(ヴァイオリン/NHK交響楽団/第7回)
大塚百合菜(ヴァイオリン/第6回)
髙橋梓(ヴィオラ/第6回)
奥村景(チェロ)
八杉友里江(ピアノ)
村山香月(司会/朗読)
木村裕(作曲/編曲) 

主催:千葉市美浜文化ホール
後援:千葉市教育委員会
協力:株式会社きむらゆういち事務所