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ブラームス作曲「交響曲第二番 ニ長調 作品73」に寄せて


初出:アレグレット交響楽団
第9回定期演奏会パンフレット
(2018年11月23日)

 人が二足で歩くとき、脚は必ず交互に動く。右-左-右と脚を繰り出すそのリズムは、そのまま「レ-ド♯-レ」のメロディになった。それがブラームス作曲、交響曲第2番の出だしである。散歩の際、自分のつま先だけを眺める人はあまりいない。見上げれば近くの梢や遠くの雲が視界に入り、耳をすませば鳥のさえずり、教会の鐘の音がこだましてくる。〝散歩人〟ブラームスも、そうしてオーストリアの名士が集う保養地ペルチャッハで散歩を楽しんだに違いない。

 ペルチャッハはウィーン南西、イタリア国境に近いヴェルター湖畔に位置する。といってもピンと来る人は少ない。筆者もまた同じ。日本でいえば軽井沢や箱根、上高地といったところだろうか。アルプスの山並みから吹き抜けてくる風、小川のせせらぎ、涼しい木陰、陽光、日没。そういった自然に囲まれて交響曲第2番は書かれた。ペルチャッハからアンペッツォ渓谷に旅行したブラームスは、クララ・シューマンへ次のように書き送った。「ここにはたくさんの旋律が飛び交っています。それらの旋律を踏みつけないようにしなければなりません」。ブラームス、44歳の夏である。

 類まれなメロディ・メーカーとしてすでに不動の人気を獲得していたブラームスは、その年の暮れ、大自然の空気をたっぷり吸い込んだこの交響曲をウィーンの聴衆に披露した。ファウスト的苦悩にたぎっていた交響曲第1番に比べ、第2番は花咲く大地の心地よさとして、観客に受け入れられた。翌年にはドイツやオランダの諸都市でも喝采を受け、140年経った今年、東京でもアレグレット交響楽団のプログラムに取り上げられた。

 本稿冒頭で筆者は〝散歩〟と書いた。だがその足運びには〝行進〟ではなく、ワルツの趣が漂う。「レ-ド♯-レ」にはじまり、同じ旋律がしばしば現れる交響曲第2番は、叙情豊かな散歩道だ。しかし安易な自然描写が続くのではなく、ときに厳粛、ときに享楽的。そして暖かな郷愁にも満ちている。とはいえ《ノン・トロッポ(過度にならず)》に寛ぎながら愉しんでほしい。

第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ
第2楽章 アダージョ・ノン・トロッポ
第3楽章 アレグレット・グラチオーゾ
第4楽章 アレグロ・コン・スピリート

◆参考文献

作曲家◎人と作品シリーズ「ブラームス」 西原稔 音楽之友社
作曲家別 名曲解説ライブラリー(7)ブラームス 音楽之友社
ブラームスとその時代(大作曲家とその時代シリーズ) 音楽之友社
ブラームスの協奏曲と交響曲(作曲家・諸井誠の分析的研究) 音楽之友社
ブラームスの音符たち_池辺晋一郎の新ブラームス考 池辺晋一郎 音楽之友社
ポケットスコア ブラームス交響曲第2番 音楽之友社
ヨーロッパ音楽の歴史西洋文化における芸術音楽の伝統(下巻)デイヴィッド・G・ヒューズ 音楽之友社
ブラームス回想録集(1)ヨハネス・ブラームスの思い出 天崎浩二 編・訳 関根裕子 共訳 音楽之友社
ブラームス回想録集(2)ブラームスは語る 天崎浩二 編・訳 関根裕子 共訳 音楽之友社
ブラームス回想録集(3)ブラームスと私 天崎浩二 編・訳 関根裕子 共訳 音楽之友社
最新名曲解説全集(交響曲II) 音楽之友社
楽曲試聴|NHK交響楽団
Brahms Symphonies Leslie Gerber
Brahms, Rhythm, and the Renaissance  Eleanor Heisey
Manuscript of the Second Symphony in D major Op.73
A Comparison of Performance Practices of Johannes Brahms Second Symphony in D major, Opus 73 Claudio Ordaz
ブラームスの親密性の発達につ いての伝記分析一なぜブラームスは結婚できなかっ たのか?一 奥井 麻里
楽譜から見たブラームスの音楽 〜ピアノ作品におけるAndanteの用法〜 渡邊智子
ヨハネス・ブラームス再考 : 交響曲における緩徐 楽章の主題をめぐって 小味淵 彦之
ブラームスの交響曲における金管楽器の強弱記号 長谷川 正 規
A.シェーンベルクの講演(1933年)および論文(1947年 )『進歩主義者ブラームス』について 石田, 美雪; 上野, 大輔; 久保田, 慶一; 森田, 三香子
ブラームスの作品に感じられる停滞感 〜ホルントリオを題材に〜 長田 麗