2019.9.21
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2019年9月20日、前日の未明に「朝日新聞DIGITAL」に掲載されたこの記事を読んだ。結論を1行で言えば、「コンサート主催者はJASRACへ一報を入れることを必須作業として覚えておくべきである」となる。
この記事のうち、無料公開されている範囲(全文971文字のうち584文字)を要約すると次のようにまとめられる。
有料コンサートを企画
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チケット代や協賛金で約30万円を集めた
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公演を開催(音楽家に出演料なし)
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JASRAC「楽曲の使用料が必要です」
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企画者「著作権使用料がかかるとは、思いもよらなかった」
この情報だけで判断すると、企画者に落ち度がある。仮に企画者が実際に「モヤモヤ」を感じていたとしても、記事タイトルに記載するのは新聞によるミスリードではないかとさえ思う。
公民館などホールを市民や企業に有料で貸し出されており、音楽イベント(コンサート)の主催者はレンタルの形でホールを借りて利用する。こうした「借りられるホール」のことを業界用語で「貸し館」と言う。
通常、貸し館の担当者は公民館であれば自治体の職員、または自治体から「管理業務」を委託・嘱託されている団体(財団などの半官半民のような組織の場合もあれば、民間企業の場合もある)である。
そうした方々は業務としてホールを「貸し出す」仕事をしているが、その日常業務の中に、主催者へ対して「JASRACに連絡しましたか?」なんて助言などは行わない。少なくとも筆者は聞いたことがない。また、ホールの管理者がコンサート主催者へ向け、著作物利用についての講習などのことも通常は行っていない。つまり、コンサート主催者は「著作物」の利用について、多くの場合は専門知識を持ってはいない。そのため、公共施設(ホール)を利用し、入場料(チケット代金)を受け取るようなコンサート、すなわち「営利活動」を町内カラオケ大会のようなノリで開催してしまうことも、無理もない。
その点は気の毒ではある。だが協賛金と入場料を設定しておきながら、コンサート開催について「これは非営利活動です」という言い逃れはできない。
演奏家にも「企画趣旨に賛同したのでロハ(無料。「只」を崩して「ロハ」)でもやりますよ」という心意気があったのだろうと推測される。出演した演奏家にもこうした出来事は気の毒だ。この事象は、企画者が「知らなかった」ことによる不幸なできごとである。かなしい。JASRACにとって問い合わせることは「通常の業務」である。JASRACに直接の非はない。だが、こうした「公演主催者の認知不足」を「JASRACの啓蒙努力が足りない」という点に帰するならば、まだまだ認知向上へ向けた取り組みが不足しているとも言えるだろう。
コンサート主催者、出演者(演奏家)、権利管理団体(JASRAC)の三方にとって残念な、悲しい出来事だったと筆者は感じる。
どのような取り組みが考えられるだろうか。たとえば、あらゆる貸し館に「音楽イベント主催者様へ」といった配布資料を提供する。これは「主催者がホールを予約した時点で情報として提供されれば、情報伝達としては有意義」だろう。資料で説明されているにも関わらず主催者が無視したならば、それは「10対0」で主催者側の落ち度となる。
マスコミを通じた全方位的(つまり「公演主催」をしない人も含めて)な告知を展開するのも、「理解浸透・認知向上」には必要だろう。公演はなにもプロイベンターだけが行うのではない。ある日突然、一般の人(つまり「素人さん」)が公演主催者になる日もある。または友人知人が主催者になった際に「JASRAC対応はした? TVで言っていたよ/新聞に書いてあったよ」とアドバイスできるような浸透が計れるかもしれない。
JASRACにとってこれは費用(コスト)のかかる施策であるが、事後になって調査員が電話や書類送付など手間(コスト)をかけるのと、どちらが安く済むだろう。公演主催者が「自主的に事前連絡」してきてくれれば、ずっとラクではないだろうか。JASRACも人員計画や経営資源の分配において、効率的に行えるのではないかと考える。
もう1つ、一般の公演主催者がミスしやすい点があると筆者は考える。それは「非営利」への考え方である。また、非営利活動をしている団体であっても、市民の集まりであれば、分類上はただの「任意団体」である。
JASRACの記述によると、「次に掲げる場合などは、「自由利用が認められる場合」に該当せず、許諾のお手続き、使用料のお支払いが必要」とのこと。
・ 非営利法人であっても収益事業の中で利用する場合
・入場料(名目を問わない)があるとき、あるいは、会員の家族、友人などへの配布を目的とした整理券を会員間などに有料で配布し、その整理券がなければ入場できないとき
JASRACは概算の料金を計算してくれるシミュレーターを公開しているので、今回のコンサートの情報を一部は推測もあるが、公演全体では90分ほどとし、JASRAC管理楽曲を50分程度演奏のケースとして当てはめてみると、【概算使用料(税込) 8,996円】となった。
非営利のコンサートであっても「無申告でよい」というわけではなかったように筆者は記憶している。あくまで主催「JASRACの管理楽曲を公演で演奏利用します。非営利です。内容の詳細はこちら」と書類を提出する。そうするとJASRAC側からは「演奏利用を了承しました。請求に該当するものはありません。(理由も書かれる)」という流れで申請と承諾が完了する。下の画像は、実際に申請が受理されたときに届いた手紙の一部である。
なお、「主催者の問い合わせ先」が公開されていない場合、JASRACからの問い合わせは会場に対して行われる。会場側に迷惑と手間をかけないためにも、主催者は公正な申請を行うべきであるし、JASRACも申請促進の啓蒙活動を地道に続けるべきだと思われる。
筆者は当初、Twitterで今回の朝日新聞の報道について紹介し、見解を書いた。その際に下記の有益な指摘をいただいたので紹介する。(非公開(鍵)アカウントからの投稿ではないのでそのまま掲載させていただく)
さて、こうした不幸が繰り返されないためにも、私にできることは何だろうかと考えた。やっぱり著作物の利用に関する手続き等をPRし、啓蒙に貢献することだろうか。この記事もその一環のつもりで公開してみたしだいだ。また、情報とか事例とか体験談とかを収集して公開し、「ふと気になった」ユーザーが検索すれば、すぐに参考にできるようなページを整理しておくといったことだろうか。いずれにせよ、音楽の「利用」に係る不幸な出来事が繰り返されないよう願うばかりである。