journal of ozakikazuyuki.com

番組視聴|ETV特集 緊急対談 パンデミックが変える世界 〜ユヴァル・ノア・ハラリとの60分〜

2019.4.29


公式サイトより)

 ETVで特別番組として「緊急対談 パンデミックが変える世界〜ユヴァル・ノア・ハラリとの60分〜」が放送された。私はハラリ氏が何を語るのかに興味があり、面白い発言があれば引用して批評したいと考えていたためPCでメモを取りながら視聴したのだが、内容は非常に興味深いものであり、結果的に書き起こしとなった。単なる番組紹介の枠を超えたページとなってしまったが、新型コロナウイルス(COVID-19)が引き起こした社会の〝現在進行形〟の変化を歴史学者のハラリ氏がどのような視座で捉えているのかが分かる内容となっていた。かつ世界史について視聴者が必要な知識を持っていることを前提として番組が構成されており、内容は「易しくも高度」であった。本記事がハラリ氏の言葉およびこのテーマに関心ある方の役に立てば幸いだ。

 オリジナルの番組内容を尊重し、改変を避けるべく本ページの内容はほぼ書き起こしとしたが、字幕では省略された若干の助詞、接続詞などは適宜補った。

text(transcription) by ozakikazuyuki mailtwitter


番組概要

ETV特集 緊急対談 パンデミックが変える世界 ユヴァル・ノア・ハラリとの60
放送日時 2020年4月25日(土) 午後11:00~午前0:00(60分)
出演 ユヴァル・ノア・ハラリ(歴史学者 )、道傳愛子(キャスター)
番組Webサイト
番組特設ページ


Yuval Noah Harari:
イスラエル生まれ、オックスフォード大学で学んだ歴史学者。
主著『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』
Yuval Noah Harari: Official Website

番組のBackground:
4月7日、NHKはハラリ氏に緊急インタビューを実施した。

 

Key Messages:

 

Q このインタビューは日本の首相が東京などに緊急事態宣言を発令するのと同じ日になりました。今回のパンデミックのインパクトをどのように見ていますか?

Harari パンデミックはまだピークに達していません。とても危険なことが2つあります。まずアフリカ、東南アジア、南米など、発展途上国がどうなるかです。これらの地域はパンデミックによる経済的ショックに対応できません。医療制度も整っていません。とても危険です。グローバルな行動計画が必要です。日本、アメリカ、ドイツのような国は大丈夫でしょう。しかしエクアデル、バングラデシュ、インドネシアのような国は支援がなければ崩壊する可能性があります。世界全体の不安定化につながるでしょう。

 2つ目の大きな危険はウイルスの突然変異です。ウイルスが多くの人に拡散し、長く止まれば、突然変異して感染力、致死性も高くなる可能性があります。これを常に意識しなければいけません。すべの人がすべての人を守ることに意味があるのです。例えば、イランでウイルスが突然変異すれば、より致死性の高いウイルスが世界に広がる可能性があります。

 人類は、過去にもウイルスの大流行を経験してきました。1918年から19年にかけて世界中に広がったインフルエンザ(スペイン風邪)には波が2つありました。最初の波は1918年春の流行です。世界中で数百万人が感染しました。しかし致死性はそれほど高くなく、多くの人が死亡したわけではありません。

 その後、終息したかに見えたのですが、夏に突然変異しました。これが2つ目の波です。最初のウイルスよりも感染力が強く、致死性もはるかに高いものでした。今回の新型コロナウイルスは、インフルエンザに比べれば突然変異の力が弱いと言われていますが、同じように危険であることに変わりはありません。

Q 私たちは今、新型コロナウイルスが世界を変える歴史上の決定的な瞬間にいるのでしょうか。医学や健康の分野だけでなく政治、経済、文化でも人々の生活は変わるでしょうか。

Harari その通りです。いま歴史の変化が加速する時代に突入しようとしています。次の2〜3カ月で、私たちは世界を根底から変える壮大な社会的・政治的実験を行うことになるでしょう。

 1つ簡単な例を挙げましょう。私の大学では過去20年間、一部のコースのオンライン化を検討してきましたが何も起こりませんでした。ああでもないこうでもないという反対で、何もできなかったです。それが今回は1週間で全てのコースをオンラインに移行しました。私たちは、この実験から多くのことを学びました。この危機が終わっても、元の姿には戻らないでしょう(We won’t just go back)。

 何かが進歩すれば、何かが危機にさらされる。それも現実です。例えば雇用が大変な危機にさらされます。大学は「授業をオンライン化したんだ、地元(local)の教授に高い給料や年金を払うよりもインド人の教授を雇えばよい。社会保障も要らないし、10分の1の給料で済む。ずっと安上がりだ」となるかもしれません。そういう危機があります。

 例えば雇用市場です。コロナ危機で組織労働者(Organize labor)の弱体化が進むかもしれません。インターネットで仕事を請け負う「ギグ・エコノミー」で働く人には組合もなく、保護も受けられません。このような人が増えるか、その逆もあり得ます。ウイルスの流行にだけ関心を持つべきではないと皆さんに言いたいのです。

 「今日は感染者が何人だった」「病院に何台の人工呼吸器がある」。こういう話は重要でしょうが、政治状況にも焦点を当てるべきです。いま政府は、数十億・数兆ドルもの規模のとても重要な決定を下しています。パンデミックが終息して、新しい秩序が定着した時に、現在の決定を効かせることは非常に難しいでしょう。

 例えば、2021年に首相に選ばれる人はパーティが終わった後、会場に着くようなものです。できることは汚れた皿を洗うことくらいでしょう。いま政治家は、経済、教育システム、国際関係のルールを根本的に書き換えるチャンスを握っています。私たちには多くの選択肢があります。正しい選択をすることを願わずにはいられません。

VTR:民主主義の危機への警告

・フランス マクロン大統領「我々は戦争のさなかにある。目に見えない敵が勢力を伸ばしている。みんなで立ち上がる必要がある。

・ドイツ メルケル首相「そのような行動制限は、絶対的な必要性がある場合にのみ正当化されるべきもので、民主主義において決して軽率に、また一時的であっても決定されるべきではありません。ですがこれは今、命を救うために不可欠なことです」

・ハンガリー オルバン首相「非常事態宣言。無期限の延長。虚偽の情報を流したものは最大5年の禁固刑」。これにはメディアへの威嚇と反発が起きた。

Q 新型コロナウイルスについて伺います。この緊急事態で政府はこれまでにない権力を手にすることができます。これは何を意味するのでしょうか?

Harari 非常に危険です。通常、民主主義は平時には崩壊しません。崩壊するのはきまって緊急事態のときなのです。しかし緊急事態のときこそ民主主義が必要なのです。

 いま各国政府は巨額(millions, trillions)のドル、円を使って対策を打っています。私たちに必要なのは民主的な監視です。それがないと権力者が友人や支持者の会社を救済して他の会社は倒産させるでしょう。緊急対策は間違いなく必要なのですが、チェックアンドバランスが欠かせません。政府に、権力につながる人だけでなく国民すべてを支援させるために監視が必要なのです。

Q 国民は非常事態で社会の混乱を許すくらいなら、過酷な政策であっても支持する傾向があると思います。これは何を意味するのでしょうか。

Harari それこそが非常事態に潜む危険性です。いま2つの非常事態が起こっています。ウイルスによる生命の恐怖と経済的な不安です。失業と企業の倒産が増え、観光業が崩壊しています。人々の恐怖感が強いので、賢くて力がある者に権力を掌握して欲しいという心理になるのです。父親のような人です。全て決めて面倒をみてくれれば良いという気になるのです。

 もう一度言いますが、これは非常に危険です。1人に強大な権力を与えると、その人物が間違った時にもたらされる結果は、はるかに重大なものになります。

 独裁は効率が良いし迅速に行動できます。誰とも相談する必要がないからです。間違いを冒しても決して認めず隠蔽します。メディアをコントロールしているので、隠蔽するのが簡単だからです。

 他の手法を試すのでなく間違いをさらに重ねて責任をほかの人に転嫁します。そうやって、ますます権力を強化していきます。そしてさらに間違いを重ねていくのです。民主主義で大切なのは政府が間違いを犯した時に自らそれを正せるか。

 あるいは政府が間違いを正そうとしない時に、それを抑制する別の力が存在するかということです。

Q 監視技術は近年飛躍的に向上しています。中国、韓国、台湾、シンガポールなどはデジタル機器を含む強力な監視しステムを設置しているようです。シュタージやKGBは時代遅れでしょうが、高性能なテクノロジー監視のあり方を変えるのでしょうか。

Harari そうです。コロナウイルスの流行が「監視」の歴史を大きく変える分水嶺となり得ます。

 2つの理由があります。第1に今回のパンデミックから多くの国が大規模な監視システムを導入する可能性があることです。独裁国家だけでなく、民主国家にも当てはまります。大規模な市民の監視に反対してきた民主国家が今こぞって監視システムを導入しています。市民も許容しています。

 しかし非常事態が終わっても、監視システムはなくならず継続されるでしょう。導入することは簡単ですが、廃止することは困難です。コロナウイルスの感染者がゼロになっても、次の危機が出現するからです。

 コロナウイルスの第2波がきたり、エボラ出血熱が流行したりするかもしれません。普通のインフルエンザでも、毎年数千人が死亡します。人々は言うでしょう。「せっかく監視システムがあるのだから、インフルエンザや、はしかの対策に使えば良いではないか」これが民主主義に起こる大きな変化です。

 第2の変化は、監視のあり方が変わるということです。これまで政府や企業は主に皮膚の上で起こる情報を集めてきました。どこへ行くのか、何を読むのか、誰と会うのか、そういった情報です。

 しかし今は、皮膚の下で起こることにより大きな関心を向けています。私の体温、血圧などから、私の体の中に入り込もうとしています。これには危険が潜んでいます。体内の現象に関する情報を集めるための新しい大規模な監視システムが導入されれば、政府や企業が私たちについて、私たち自身よりもよく知るようになります。あなたが私の体内を監視できるなら、私の感情を知ることができるようになるのです。私について全てを知ることができます。

 今は監視によって、人がオンラインでどんな記事を読むかを知ることができます。どこをクリックしたかもわかります。しかし、私が記事にどんな反応を示したのか、怒ったのか、賛成したのか、反対したのか、それは分かりません。ところが本を読んだりテレビを見たりしている時の私の血圧、体温、心臓の鼓動を監視できれば、私がどう感じたのかが分かります。少し怒っている、喜んでいる、恐怖心があるなど、病気と同じで生物学的現象(biological phonomena)です。

 自分がテレビを見ているときに、誰かが体の中を監視していると想像してください。あなたの体内で起きている現象から、テレビで見たことへの感情的反応を知ると想像してください。これは作家のジョージ・オーウェルさえ想定しなかった全体主義です。それほど遠い先の話ではありません。

 たとえば北朝鮮です。市民が10年後に生体情報収集のブレスレットを義務付けられたと考えてみてください。指導者のスピーチを聴いた時に怒りを覚えたら、すぐに知られてしまいます。笑顔を浮かべ、拍手をしても、体内で起こることはコントロールできないからです。極めて恐ろしいことです。

Q 少しSFのような感じもします。これは現実性があり、遠い将来のことではないと言うお話でしたね。

Harari そのためのテクノロジーはすでに存在します。それを導入しようと言う意欲もあります。政府は国民を追跡したいのです。ロックダウンと隔離政策が国民の監視にかかっていることは明らかです。多くの国でロックダウンが実施されています。各国政府は、国民が仕事に戻ることやレストランやビーチに行くことを許可するタイミングを待っています。それを実施する方法は、生体情報集取を利用する監視になるでしょう。

 誰かが病気に感染しても、会った人を全員すぐに特定できます。感染の連鎖を早く食い止められます。これが生体情報監視で可能になります。全ての人がスマホを持っていない国で国民を追跡しようとするなら、指輪やブレスレットの着用を義務づければ出かけた場所や体温が分かります。これはSFではありません。すでに存在するテクノロジーです。そして今この技術を活用する動機があります。

Q さらに一歩進めてもよろしいでしょうか。こうした生体情報監視のテクノロジーを悪用して(米大統領選の)ケンブリッジ・アナリティカ社のような操作が起きたら大変ですね。

Harari その通りです。ケンブリッジ・アナリティカ社が2016年に行ったことは、今ならもう石器時代の産物です。彼らはFacebookのアカウントを監視しただけです。友達がどこにいるのかといった情報だけでした。今ではレベルが違います。ちょっと想像してみてください。24時間、体の中を監視して私を操作することができると。人はよく心で思っていることと別の感情を口にします。今、ボリス・ジョンソン(英首相)が入院しています。このことを話す人は「同情する」とか「早く元気になって欲しい」と言います。たとえ政策には反対でも、現在の危機に政治家が連帯感を示すのは良いことです。

 しかし生体情報のブレスレットを労働党の議員に装着したとして、実はその議員はジョンソン首相の入院を喜んでいると分かったらどうでしょう。この議員の本音です。こんな情報を入手したらと想像してください。

Q 考えただけでも恐ろしいですね。イスラエルについても伺います。非常事態の時に情報をどのように扱っているのでしょうか。イスラエルは治安機関に監視技術の運用を容認していますね。通常はテロとの戦いに活用しています。それが今は感染を追跡することを容認しています。これは憂慮すべきことですか。

Harari 大変憂慮すべき事態です。それを担っているのが治安機関だからです。

VTR:イスラエルでは、感染者や感染を疑われる人物の携帯電話番号が保健省から警察へ送られます。警察はその人物の位置情報を遡り、過去の行動履歴を割り出します。さらにその人物の近くにいた人を割り出し、接触者として特定します。保健省が必要と判断すれば、接触者を収容し、隔離することもできます。隔離命令を違反したと思われる人物を白い防護服を着た警察官が逮捕している様子を捉えた動画もインターネットに投稿されています。

Harari 病気や流行に関する国民の情報を集める権限を治安機関に託してはだめです。理想的に言えば、その役割は独立した疫学専門家のグループが担うべきです。さまざまな国で疫学と情報収集に特化した新しい組織を作るべきだと思います。

 ただし収集した情報を警察のような組織に見せるべきではありません。独裁政府を作るために情報を使うことは許されません。また国民は個人情報を収集するのが保健当局だけならより協力するでしょう。健康のためだけの情報集取であれば、私だって秘密警察が集めているよりずっと協力的になりますよ。

 世界には、政府を恐れる少数民族がいる国はたくさんあります。たとえばイスラエルのパレスチナ人です。パンデミックと戦うには100%の国民の協力が必要です。50%や70%ではだめです。イスラエルのパレスチナ人は、治安機関の監視システムには絶対に協力しないでしょう。治安機関を信頼していないし、それは理解できます。

 しかし監視システムを独立した医療機関が統括すれば、彼らは喜んで協力するでしょう。このことを目標にすべきです。

*Emergency Pudding:プディングの流通や原材料を国家が規制するイスラエルの法令。1948年、第一次中東戦争時に制定。当時、土地の接収や経済統制など、一時的な緊急措置を行った。その際にプディングさえも国家の規制の対象とされた。これらの一時的措置の多くは、その後も廃止されることなく続いた。

Q 最近の歴史からも、緊急事態が終わっても規則や規制が残り続ける例を挙げていましたね。「プディング令」についての指摘がソーシャルメディアで話題になっていました。「プディング令」とは何だろうと不思議です。教えていただけますか。

Harari 戦争の直後に経済が危機的状態になりました。政府は食料の供給に関するあらゆる種類の命令を出します。その中に、贅沢品とされたアイスクリームやプディングに関するものもありました。プディングを制限する緊急命令が出されたのです。これが廃止されたのは2011年です。ばかばかしい話です。

 しかも非常事態そのものはいまだに終息しておらず、1948年にさかのぼる多くの緊急命令が法的に有効で今でもイスラエル社会を形作っています。プディングの緊急命令は2011年に廃止になりました。私がこの面白い事例で伝えたかったのは、緊急措置の適用は危機の間だけで、危機が去ればいつも通りに戻ると私たちは思いがちですが、それは幻想に過ぎないということです。

 緊急事態や緊急措置は一人歩きを始め、状況が変わっても長く維持される傾向があります。それが今回も起きるでしょう。

 例えばコロナウイルスと戦うために監視システムを受け入れたとすると、危機が終わっても、監視を続けるためのシステムは残るでしょう。

Q そしてもうひとつ歴史を振り返ると、危機が過ぎても、国の指導者は緊急時に手に入れた権限を手放すことに消極的です。その点に喪中が必要ですね。

Harari できる限り気をつけなければなりません。緊急命令は必要です。強力で迅速な対策が必要だからです。でもそれは民主的かつバランスがとれているべきであり、特定の個人に大きな権力を与えてはいけません。

VTR:市民に力を与えることで、私たちは自分の健康を守り、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことができる。

Q 人類とコロナウイルス、そして市民に力を与える〝エンパワーメント〟について、強固な監視は、パンデミックを封じ込めるには正しいやり方だとの声もあります。しかしあなたは市民のエンパワーメントをもっと重視すべきとのご意見ですね。

Harari 私は監視を否定しません。むしろ感染の拡大を食い止めるために、新しい技術を利用することには賛成です。しかし監視は政府だけでなく、一般市民にも2つの方法で力を与えるべきです。

 第1に、私自身やほかの人々の身体の状態に関するデータを政府が密かに保管することは許されません。私には自分の健康状態に関するデータにアクセスする権利が与えられるべきです。私自身の健康管理について、よりよい判断を下すためにです。

 また自分の健康管理データにアクセスできれば、政府が採用している政策が有効なのか否かを自分の身をもって試すことができます。これがイランのように全体主義的な国だと死者の数や感染症拡大に関して国が信用に足るデータを公表しているのかどうかさえ国民は知るよしもありません。データは透明で、監視は双方向であるべきです。このような情報にアクセスできれば、市民はより大きな力を持つというわけです。

 十分な知識を持ち自分で判断できる国民は、警察に指示されるだけの国民より、はるかに効果的です。これは非常事態にも当てはまります。

Q 市民に力を与えることが重要だと言われましたが、いまの状況は市民に突きつけられた試練だと思いますか? 市民にはどのような行動が求められますか? 何かを待っている余裕はないはずです。

Harari 確かに市民にも多くの責任が生じます。1つは信ずるべき情報を慎重に吟味し、科学に基づいた情報を信頼すること。そして科学的な裏付けのある指針を実行することです。

 市民が科学的な指針に従えば、緊急時の独裁的な手段を取る必要性が少なくなります。これはとても重要です。私たちの一人一人の務めは、現在の状況や誰を信じるべきかを知り、大学や医療関係者など、信頼に足る科学的組織から出された指針を忠実に守り、不確かな情報に惑わされないことです。

 今後は科学者が気候変動など警告を発した時も、同じような信頼で受け止めることを期待します。疫学の専門家からの感染症についての情報を私たちは今、真剣に受け止めています。気候の研究者が地球温暖化について警告したときも、同様の信頼で受け止めるべきです。

Q 今回のパンデミックは、グローバリゼーションが主因だと主張する人たちがいます。

Harari それは違います。パンデミックはグローバリゼーションが進む前から発生していました。中世には飛行機も大型クルーズ船もありませんでしたが、ペストのような最悪のパンデミックが起きています。隔絶によって感染症を予防するなら、石器時代まで戻らなくてはなりません。石器時代にはパンデミックはありませんでした。狩猟採集社会で人々は小さなグループに分かれて常に移動していました。村も都市もありません。こういう環境ならパンデミックは起きないのです。

 私たちはその時代に戻ることはできません。ですから、パンデミックへの現実的な対抗策は、隔絶ではなく、協力と情報共有です。

 コロナウイルスに対する人間の最大の強みは、ウイルスと違い、協力できることです。中国にいるウイルスはアメリカのウイルスに対して、どうやって感染するのか、どうやって人間の免疫系を避ければ良いのかを伝えることはできません。しかし人間は中国の医師がアメリカの医師にアドバイスできますし、中国政府がアメリカ政府を助けることも可能です。

 ウイルスを検出する方法についても協力して共通の計画を策定できます。これが私たち人間の強みです。これを活用しなければ、現在の危機はさらに悪化するでしょう。

 この感染症が世界のどの国で広まっても、人類全体に対する脅威だと理解すべきです。確かに今は国境を封鎖し、移動を制限する必要があります。そのためにも協力と情報が不可欠です。

 中国や韓国は、感染症の拡大と封鎖解除の重要な情報を持っています。中国は封鎖を緩和しようとしています。その過程で得た情報や教訓は今後、最も効果的な方法を判断するうえで、ヨーロッパや世界中の国々の参考になるでしょう。

 それぞれの国が自分のことだけを考えると、貴重な情報は失われてしまいます。もし中国がロックダウンの緩和で何か失敗をしたのに、その情報を開示しなかったら、イタリアやスペイン、カナダなどが今後、全く同じミスを犯すでしょう。ですからロックダウンも、グローバル化を反映して、情報を共有しながら進めていくべきです。イタリアにいる人が何かいい考えを思いついたら、それはあらゆる人に共有されるべきでしょう。

VTR:インタビューの1週間後、アメリカはWHOへの拠出金停止を決定し、連帯を拒否し始めた。マスクなどの製造に必要な資材の貿易も制限した。これを受けてカナダのトルドー首相は「必要な物資の貿易に対して障害を作ることは誤りだ」と批判した。

Q さらなる協力と団結が必要とおっしゃいましたが、人々に信頼されるリーダーが不在の中、どうやったら実現できるのでしょうか。

Harari 現在の危機で最大の問題の1つはリーダーシップの不在です。ここ数年のさまざまな出来事の結果です。2014年のエボラ出血熱のパンデミック、あるいは2008年の経済危機では、世界的なリーダーシップが機能していました。アメリカがリーダーの役割を引き受け、多くの国がアメリカのもとに集まり、最悪の結果を防いだのです。

 ここ3〜4年で2つのことが起きました。何より大きかったのは、アメリカが世界のリーダーという役割から退き、「アメリカ・ファースト」に代表されるように自己中心的になりました。今のアメリカに友人はいません。

 第2に世界の空気が大きく変わりました。敵意や分裂がエスカレートしています。そのような状況が今回の危機への対応をとても難しくしています。協力なしに感染症の拡大を阻止することは困難で、経済崩壊を食い止めるのはさらに難しいでしょう。

 今後のリーダーシップを期待しています。アメリカ以外の国々かもしれません。アメリカの政権は、今になってようやく危機の重大さを思い知ったようですが、それでもリーダーの役割を引き受けるつもりはないようです。引き受けようとしても、誰も聞く耳を持たないでしょう。

 アメリカが今、世界的な行動計画を策定したとして、誰が現政権を信頼しますか? ですからさまざまな国がこの空白を埋め、集団でリーダーシップを発揮することを期待しています。

Q リーダーシップが不在のなかで、企業や市民が空白を埋められますか?

Harari ええ、空白の一部は情報を共有して、民間企業や団体、一般市民などで埋められるでしょう。しかし、ほかの方法もあります。例えば自国の政府に圧力をかけることです。国民が政府にこう言ったらどうでしょうか。「今の危機的状況に医療機器は必要だ。しかし他の国はもっとひどい状況だ。私たちは責任ある態度で団結を示したい。他の国を助けたい。その重荷を背負う覚悟はある」。

 その声に答えてくれる国々は現れるでしょう。このような世界的な団結を私は期待しています。それは何も、今回の危機にこうした考え方が必要なだけでなく、危機が過ぎた後の世界にも良い影響を与えると思うからです。

 例えば気候変動について考えてみましょう。私たちの身の回りで起きている大きな危機です。世界の団結が必要なのは明らかです。

Q ウイルスとの戦いの勝利をどのように定義しますか? 撲滅できるようなものではないですよね。

Harari これは戦争と考えるべきではないと思います。間違ったたとえです。戦争というのは端的に言えば、銃を持った兵士たちの殺し合いです。今の状況は全く違います。病院で働き、ベッドのシーツを換える看護師こそ英雄です。重要なのは人のケアをすることで、殺し合いではありません。

 ウイルスをやっつけなくてはいけませんが、いかなる人も敵とみなすべきではありません。戦争や戦い、勝利といったたとえは使うべきでないと思います。

 そして世界中の全ての人をケアし、ウイルスの拡散から守り、さらには経済的苦境からも守ることができたらそれが成功でしょう。自国の人だけを守って他の国が崩壊してしまったら、私はそれを成功とは呼べません。

VTR:アメリカのWHO拠出金停止の直後、ハラリ氏は100万ドルのWHOへの寄付を発表した。「私たちは大富豪ではありません。しかし何億もの人々が職を失っている時、暮らしに困らない者は、物惜しみすべきではないのです」。ハラリ氏には、なぜ母国イスラエルではなくWHOへの寄付なのかという批判が寄せられた。それに対してハラリ氏はこう回答した。「私の地元、テルアビブの病院は、コロナウイルスの遺伝情報を中国とドイツから受け取った。最良の治療法はイタリアやアメリカから教えてもらった。もし世界から正しい情報を受け取ることができなければ、テルアビブの病院は無力となる。自力でワクチンを開発することも不可能だ。パンデミックの中で同胞を救おうとしたら、国際的な協力を選ぶほかに道はない。

Q 長いサピエンスの歴史から見て、この世界的パンデミックが意味することは?

Harari 人類はもちろん、このパンデミックを乗り切ることができるでしょう。私たちはこのウイルスよりずっと強いし、過去にもっと深刻な感染症を生き抜いた経験があります。その点に疑問の余地はありません。

 この感染拡大が究極的に何をもたらすのか、あらかじめ決まっていません。結末を選ぶのは私たちです。もし自国優先の孤立主義や独裁を選び、科学を信じず陰謀論を信じるようになったら、その結果は歴史的な大惨事でしょう。

 多数の人が亡くなり、経済は危機に瀕し、政治は大混乱に陥ります。一方でグローバルな連携や民主的で責任ある態度、科学を信じる道を選べば、たとえ死者や苦しむ人が出たとしても、後になってみれば、人類にとって悪くない時期だったと思えるはずです。私たち人類はウイルスだけでなく、自分たちの内側に潜む悪魔を打ち破ったのだ、憎悪や幻想・妄想を克服し、真実を信頼して、強く団結した種(しゅ)になれた時代だと位置づけられるはずです。

Q 最後に1つ伺います。毎朝起きるたびに、コロナウイルスの現実を思い知らされますが、どうやって恐怖心を克服していますか?

Harari 方法は2つあります。まず私は毎日2時間の瞑想を欠かしません。この危機だからこそ瞑想したいのかもしれません。人によって合う方法は違います。瞑想が向かない人はスポーツもいいですし、オンラインのセラピーなどもあります。しかし今のような危機では、毎日少しでも自分の心をいたわることがとても大切です。

 そしてもう1つ。私は科学に頼ることで恐怖心を克服しています。突き詰めれば私たちが科学を信頼すれば、この危機を容易に乗り越えられると思っています。あらゆる種類の陰謀論に屈してしまえば、恐怖心が膨らみ、非理性的な行動を取ることになります。

 オープンな心で状況を科学的、理性的に見つめれば、きっと出口は見つかるはずです。

〈おわり〉