マミさんの仲間殺害場面についての考察|魔法少女まどか☆マギカ
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マミさんの仲間殺害場面についての考察

『魔法少女まどか☆マギカ』TV版10話(劇場版なら[後編]の46分前後)のマミさんの「みんな死ぬしかないじゃない」の場面について考えました。あの場面について、マミさんの錯乱や絶望、メンタル薄弱という解釈が広くなされているようですが、本稿で述べる私の意見は、マミさんは決して錯乱したのではなく、マミさんにとっての「正義」と「論理的思考」に則った行動なのではないか、というものです。本稿では問題場面を検証しながら、マミさんの心理と行動の分析を試み、マミさんの行動の真因を探ります。(本記事は2014年5月11日のものです)

1|魔法少女は魔女予備軍だったという事実への直面

例えば次のような刑事ドラマを想像してください。もちろん特殊な設定のフィクションです。「主人公は熱血警察官。職務に邁進していた彼だったが、物語の中盤で彼は一つの驚愕の事実に直面する。それは『すべての警察官は警察の職務に失望したり、己の正義を見失ったりすると、人知れず警察を去り、犯罪者へと転身する』。すなわち世界中のすべての犯罪者は元警察官だったのだ」という設定の刑事ドラマ。そのドラマならば、主人公の熱血警察官は、「犯罪者を生まないための行動(犯罪者の根絶)」として「まだ犯罪者化していない警察官の連続殺傷」を実行するのでは? という展開があり得るでしょう。

もしくは、もうちょっと、実際にありそうなストーリーでたとえると、「熱血警察官が巨悪の闇(巨大な犯罪組織)を暴いたら、実はなんと、その組織は、警察官僚による組織でした。さあ主人公の取った行動は?!」という感じです。上記の例は架空の刑事ドラマの場合ですが、警官ではなく魔法少女ならばどうなるだろうか、と思ってみたわけです。マミさんが直面した衝撃的な「事実」は「自分たち(魔法少女)は、なんと魔女予備軍だった」ということ。そしてマミさんは極めて冷徹に自分の任務遂行のために(そして自分自身がそうならないために)「自分の使命は魔女退治。だから魔女化する前にみんな死ぬ(魔法少女を殺す)しかない」と判断してもおかしくないわけです。

2|現場検証。価値観を揺さぶられたマミさん

本稿で述べるテーマは、「なぜマミさんはそのような行動をとったのか?」です。精神力が弱いと揶揄されがちなマミさんですが、本当に彼女は精神薄弱なのでしょうか? わたしはそうは思いません。「クトゥルーの呼び声」的にいうと、マミさんは「SAN値は高く、耐性も強い」のではないのか? という仮説を提唱してみます。(※SAN(Sanity)値:そのキャラクターの正気度合いを数値化するもの。SAN値が下がると徐々に正気を失い、失くなると発狂する)

わたしの説はマミさんの行動は精神的錯乱などではなく、マミさんの正義感、価値観、倫理観、論理性に基づいた「考えられた結果の行動」ではないか、というわけです。

まず、『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ』[後編]のブルーレイ45分57秒から46分07秒までのシークエンス(10秒間)をカット割りごとに見てみます。

魔女オクタヴィアを倒した後、憤る杏子たちに向かって、この時点ではマミさんは何も言葉を発していません。この時間軸におけるオクタヴィア戦で、マミさんがどのような活躍をしたのかも描かれておらず、ほむら視点でのみ、「時間を止めて発砲し、飛んでくる車輪の軌道を逸らし、時限式爆弾でオクタヴィアを葬った」という状況がわかります。

「魔法少女が魔女になる」という事実をどのタイミングで知ったのか、オクタヴィア戦との前後関係はわかりません。しかしながらマミさんの頭の中では、非常に強いせめぎあいがあったのではないか、と思われるわけです。

3|まどかの選択、マミさんの判断

魔女退治に使命感を持っていたマミさんですので、「すべての魔法少女は(魔女化以前に戦死しない限り)いずれ魔女化する。自分も遅かれ早かれ魔女になる。あなた(他の魔法少女)も全員魔女になる」という事実に直面し、理解したものと思われます。その事実を知ったことで、それまでマミさんを支えてきた「価値観(魔女=敵、魔法少女=正義の執行者)」が揺さぶられ、崩れた(あるいは否定された)のではないか、と想像できます。

そうした「事実」に直面したマミさんなりの、極めて冷静(冷徹なまでに論理的)な結論は「みんな死ぬしかない」だったのではないでしょうか。これはまどかについても同じことが言えます。本編時間軸のラストでまどかは「魔女化する前に魔法少女を救済する」を選択しました。マミさんの選択は「魔女を根絶するには、魔法少女が全員消えるしかないのでは」と結論付け、それを実行に移す事だったのではないかと思われます。

整理しますと、まどかは「すべての魔法少女を魔女になる前に消滅させる(救済する)」という選択肢をとり、マミさんは「魔女を発生させないためには(←目的)みんな死ぬしかない(←魔法少女を辞めることはできないので、魔女化または死しかない。ならば、選択肢は死しかない)」というロジックを冷静に採用したのではないか、という推論です。つらいですね。

4|ソウルジェムが魔女を生むという事実は、マミさんにとって「絶望」ではなかった

わたしの仮説はまだ続きます。マミさんは交通事故時に「生きたい」を願いに契約しています。マミさんが「死ぬしかない」を判断したのは、絶望ゆえの行動のようにも思えます。ですがこの絶望が引き金になってマミさんは魔女化していません。ということは、やはりあの行動は絶望による行動ではなく、また、魔女化を引き起こすタイプの絶望とも異なる、別の種類の感情と論理による行動であったと言えます。

ここで思い返されるのは、魔法少女たちは常に戦場にいるということです。そしてマミさんの戦略目標は魔女の駆逐です。マミさんはその目的のためならば、あらゆる手段を遂行する強い意思を持った前線指揮官であるともいえます。

ということは、「本当は仲間想いの隊長だが、大義や『最終的な戦略の完遂』のためならば部下や同僚に犠牲を強いる、非情な決断もできる」という合理的な強い意志の持ち主なのではないか、とも思われます。

泣きながら「みんな死ぬしかないじゃない」と叫ぶマミさんの胸中を満たしていたのは、やはり「絶望」よりも、「目的のために仲間を斬り捨てなければならない指揮官の〝悲痛さ〟」だったのではないでしょうか。そこにいたのは弱い魔法少女ではなく、信じる正義(魔女撲滅)を貫いたのはマミさんだったのではないでしょうか。

その証拠として挙げたいのは、PSP版でマミさんの魔女化(キャンデロロ誕生)の動機は、「正義感(信じていた価値観)が揺らいで〝罪の意識〟を感じたとき(魔法少女としての生き方を否定されたとき)」であることです。[後編]の問題シーンで彼女がその場でキャンデロロにならなかったのは、まだ彼女の信念(正義感)が致命的なほど揺らいではいない証拠ではないでしょうか。

5|仲間殺しの段取りも合理的。しかし油断が

問題の場面では、マミさんはまず、強力な近接戦闘力を持つ杏子を不意打ちで瞬殺したにも関わらず、ほむらを拘束して銃口を向け、ほむらには「仲間殺しの理由」を打ち明けました。「ソウルジェムが魔女を生むなら、みんな死ぬしかないじゃない」のセリフは、その理由説明であると思われます。

この場面でマミさんは、飛び道具を持つまどかを攻撃せず、ひとまず無視した形となっています。その理由ですが、マミさんは〝まどかは反撃してこない〟と予測したのではないでしょうか。高速な連続攻撃を得意とするマミさんですが、時間を止めて逃げられてはいけないと、まずはほむらを拘束したのだと思います。2つの対象を同時に強く拘束することはできないのかもしれません(要検証)。マミさんの作戦は次のようなものだったのではないかと思われます。杏子を射殺→ほむらを拘束して時間操作を封じて射殺→まどかを説得するか射殺→以後は一人で魔女・魔法少女の両方と戦う。仲間殺し作戦には段取りが感じられます。

ほむらに説明をしたのは、マミさんの油断であったとも言えますし、仲間にその行動理由を明かしてくれた誠意であるとも、どちらともいえると思います。

「ソウルジェムが魔女を生む事実を知った」のはマミさんにとって辛い現実でしたが、それでもまだ「魔女を消すという信念」は揺らいでいないようです。だからこそ、マミさんの決断は合理的でありながらも、心情的には辛いながらも意志を持った行動であったことが思い偲ばれます。

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