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コンサート感想|新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団 NJBP Live! #12 “ウィザードリィ”特集 [2019.12.8]

2018.12.09


本公演チラシより

はじめに

 筆者の個人的意見だが、ウィザードリィには「PCオリジナル」と「FC/日本版」の実質的に2つのバージョンがあると考えている。

 筆者の友人であるWIZガチ勢からすると、「その分け方は乱暴だ」「横暴だ」「実際にはもっと細かく正確に分類すべきだ」という意見もあろう。とはいえ筆者の日本版の定義は単純だ。「末弥純がモンスターグラフィックをデザインし、羽田健太郎がBGMを作曲したバージョンおよび、その雰囲気(ムードあるいはモード)を〝DNA的〟に継承している一連の作品群」が日本版である。となると、結果的に「日本版か、そうでないか」の2つのバージョンがある、という結論になる。

 コンサートの話をする。これまでもウィザードリィの楽曲が器楽の生演奏で披露されたケースはゼロではない。(『PRESS START』2010年公演など)

 だが、今回のNJBP公演は趣が異なる。ウィザードリィのみで構成されたプログラムである。本公演ではFC版WIZ 1「狂王の試練場」(Scenario #1)、WIZ 2「リルガミンの遺産」(Scenerio #3)が全曲●●演奏された。これだけならば、とりたてて驚く内容ではないかもしれない。だが本日のゲストが一味違う。日本のWIZファンにとって、レジェンド級の超重要パーソンだと筆者が思っている業界第一人者の忍者増田氏である。

 筆者はゲーム雑誌『ログイン』の頃から忍者増田氏のコラムや記事の読者である。また、筆者は『HIPPONスーパー』誌などにあったWIZ関連記事や単行本の読者でもあった。それが約四半世紀以上の時を経て、「ナマの忍者増田氏がコンサートのステージに出現する」ということにビビらないことがあろうか。いや、ない。近代日本のエンタメを代表する〝3大忍者〟といえば、①GOODのNINJAショー・コスギ、②忍者ハットリくん、そして③忍者増田氏であろう。

つつじホールほぼ満員のWIZファン

 開場前、忍者増田氏がホール入り口で記念撮影をなさっていた。筆者はつい「よっ、Goodの忍者!」と、歌舞伎の大向こうばりに声かけすべきかどうか迷ったが、拍手するにとどめておいた。

 この日参加のNJBP友の会会員の来場は30人弱といったところだろうか。開場時点付近で来場者は300人を超えていたと思われる。エントランス前は待機列の治安も筆者の観測範囲ではとても良く、待つ・並ぶに慣れているツワモノ揃いで心強い。

 「北とぴあ つつじホール」はエントランスの先がいきなり昇り階段という構造である。待機列が階段で形成されるという、安全上は推奨されざる構造であるが、いたしかたがない。会場のキャパシティが402人であるから、380人近い来場だったのではないだろうか。

プログラム

 さて、本編である。プログラムは次の通り。

FC版ウィザードリィ「狂王の試練場」

第1曲 オープニング・テーマ
第2曲 城 ―― ギルガメッシュの酒場
第3曲 ボルタック商店 ―― 町はずれ
第4曲 地下迷宮 ―― 戦闘
第5曲 全滅
第6曲 キャンプ ―― カント寺院
第7曲 冒険者の宿
第8曲 ワードナ
第9曲 任務完了

 休憩

FC版ウィザードリィII「リルガミンの遺産」

第1曲 ウィザードリィII・オープニング・テーマ
第2曲 リルガミンの遺産 ―― ギルガメッシュの酒場 II
第3曲 町はずれのテーマ ―― カント寺院II
第4曲 ボルタック商店II ―― 冒険者の宿II
第5曲 ダンジョンのテーマ ―― キャンプII
第6曲 戦闘のテーマ ―― 全滅〜レクイエム
第7曲 ル・ケブレス
第8曲 ウィザードリィII・エンディング・テーマ

 前半はWIZ FC版1「狂王の試練場」、後半はFC版2「リルガミンの遺産」で使われる楽曲の全曲演奏である。様々なゲームで楽曲数が膨大になったFC後期以降(これは現代までつながる)のゲームと比較し、これで全部というシンプルさである。だが、過不足がないのである。これがFCゲームミュージックのポイントであろうか。ゲーム自体に過不足がなければ、音楽にも過不足がない。必要十分である。

トークコーナー

 前半・後半ともに演奏の前はトークである。

 ウィザードリィ未体験の指揮者市原氏は、この公演開催決定を機に、WIZ1を「攻略情報を見ず」のプレイをしているとのこと。日本を代表するウィズフリークの1人である忍者増田氏はそのプレイ動画を視聴し、「つっこみどころが多い」と表現して会場の笑いを誘った。

「市原さん、ハリトやバディオスの呪文は使わないんですよ。使うなら、カティノやディオスを使わないと」(忍者増田氏)

ハリト:レベル1魔法使い呪文。攻撃呪文。
バディオス:レベル1僧侶呪文。敵1体に対する攻撃呪文。
カティノ:レベル1魔法使い呪文。モンスターを眠らせる。眠ったモンスターに与えるダメージは2倍になる。
ディオス:レベル1僧侶呪文。HPを回復する。

ウィザードリィは、ドラクエ型の「MP」制ではなく、呪文のレベルごとに「使用回数」が決まっている仕組みである。したがって、同一レベルでの呪文の中で「使う(使える)」「使わない」呪文がおおむね固定化されているのである。

 後半のトークでは、忍者の研究者による「手裏剣は実在しなかった」という説が紹介され、「手裏剣はあったことにしてほしい」と忍者増田氏は語る。

 忍者増田氏はPC88でのユーザーであったことから、会場へ向かって「PC88でプレイした人は?」と投げかけられると、かなりの人数が挙手した。「Apple II版では?」との問いかけにも、若干数の手が上がり、今日の来場者の〝濃さ〟を感じられる一幕もあった。

 忍者増田氏を「日本トップのWIZフリーク」と紹介した市原氏に対して、「今日のお客さんの方が自分よりもフリーク度が高いのでは」と増田氏が謙遜しながらコメントしたひとコマも、筆者には印象的だった。市原氏と忍者増田氏は、実に8年ちかくの旧知とのこと。このコンサートが企画され、そして実現されたことについて、筆者はNJBPの事務局へ感謝の念が絶えない。本当にありがとうございます。

演奏の感想

 楽曲の話をする。個別の曲ごとの感想は機会があれば加筆する。

 編成は 3-3-2-2-2 1-1-1-1 1-2-1-0。打楽器なし。

(第1・第2ヴァイオリンが各3人、ヴィオラ、チェロ、コントラバスが各2人、木管楽器群はフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットが各1人、金管楽器群はホルン1人、トランペット2人、トロンボーン1人、チューバなし、打楽器その他もなし)

 筆者は「一管編成」をこよなく愛す者である。そのため、今回の編成は会場規模ともありまり、非常に嬉しい編成であった。

 演奏用オーケストレーションも秀逸であった。今日の聴衆も全体がWIZフリークとはいえ、サントラの履修率はかならずしも高くないものと思う。『オープニング』などは「サントラ版」に準拠していると市原氏から事前説明があったこともよかった。今日初めて「間奏部分を聴く観客」は、聞き慣れたWIZの音楽に「実はこんな表情もあった」という新鮮な感動を得たのではないだろうか。

 今回演奏用の加筆部分も称賛してよいように筆者は感じた。トータルに言って、羽田健太郎氏のオリジナルスコアの「深さ」と「崇高さ」を同時に格調高くまとめていたように思う。ぜひ再演を希望したい。

 演奏面では、オーボエ髙田園子氏とフルート櫻田朗歩氏の歌い方や旋律の描き方は、古典ファンタジーであるWIZの世界観とすばらしく一体化していたように感じた。演者の方々がWIZファンかどうかはわからないが、他のファンタジーゲームでのソリスティックな聞かせか方とは、また違うイメージをもって奏でられたのではないかと思う。あるいは楽曲そのものの〝古典的感〟がそうさせたのかもしれない。

 クラリネット水越裕二氏とファゴット丸山佳織氏の活躍は特に素晴らしかった。ファミコンのFC音源とクラリネットは、その相性の良さゆえに、とかく〝仕事〟が集中しがちである。水越氏の今回の仕事ぶりはお見事というほかない。作曲家の羽田健太郎氏はピアニストとしても一流であった。ゆえに、オーケストレーションされた今回の演奏において、ファゴットには「ハネケンの左手」を任される場面が多かったと感じる。ファゴット丸山氏は、高度な演奏技術で「ハネケンの左手」を見事にやり遂げていた。賛辞を贈りたい。また、丸山氏の温かみあるサウンドの魅力は、こうした古典的な世界観をもった室内楽規模でこそ、最大限に光るのではないだろうか。

 木管の方々にとっては仕事量を含め、プレッシャーが多くて大変な公演だったと思う。とはいえ本日は名演だったと筆者は心から称賛したい。

 アンサンブルや指揮者をおかない室内楽の公演を多数重ねているNJBPなので、弦楽器群の演奏はすばらしかった。筆者は昨年の「古代祭り」(NJBP Concert #1 “古代祭り” [2018.12.1])も拝聴したが、NJBPの弦楽器サウンドの魅力は、今回のような室内楽規模でこそ真骨頂を体験できるのではないか。個々人の技倆の高さに加え、時にアグレッシブに、時に手堅く構築する、弦楽器のたしかなアンサンブルがNJBPの最大の強みであるように感じる。

 次に個人的な好みを少し述べる。

 今回は2本のトランペット、各1本のトロンボーンとホルンという編成であった。この金管群の編成から、トランペットとトロンボーンを外して「3本のホルン(2パート&アシスタント)+2本のコルネット」だったら、どんなサウンドになっていただろうか。本公演の内容と編成について、演奏者の慎重かつ丁寧な演奏が感じられたものの、筆者にはトランペットの音では硬すぎ、鋭すぎのように感じた。思い切ったコルネット採用で、楽曲の気高さと格調高さを維持しながら、よりサウンドをソフトにする選択肢があったら、どう変わっていたかを想像してみた。また、金管の見せ場が、もっとホルンに寄っている方が聴かせどころという点で筆者の好みだったかもしれない。

 あるいは、さらに思い切った選択肢として、金管楽器群を4本のトロンボーンとするのはどうだろう。ソプラノ、アルト、テナー、テナーバスを各1本とする4本構成で、トランペットとホルンを思い切って外す。今回のWIZ楽曲のオーケストレーションにおいて、金管群はまとまって登場する場面が多く、ゆえにホルン、トランペット、トロンボーンの「キャラクターの差」が筆者にはやや気になった。

 ソプラノトロンボーンなどはレア楽器であり、使われる機会が希少なので調達からして面倒かもしれない。だが、きわめてソフト●●●●●●●に演奏できる4人の優れたトロンボーン奏者による、調和を重視したオーケストレーションであったら、今回の演奏がどう変化していただろうかと、筆者は公演後に思考実験してみた。

 今回のオーケストレーションにおいては、木管楽器群は個々のキャラクター性をみごとに表現し、かつその表現力を最大に引き出せる巧みな編曲だと筆者は絶賛したい。金管楽器群については、楽曲で使われる場面に偏りがあることから、楽器ごとのキャラクター性よりもブラスサウンドとしての一体感が楽しめるとなお良かったように思う。

 かつて『ウィザードリィ プレイヤーズ・フォーラム vol.1』という小さな本の中で、羽田健太郎氏はWIZ1はクラシカル、2はややポップス寄り、3ではロックテイストになり、5の作曲においてはクラシカルへと原点回帰したと述べていたと筆者は記憶している(出典情報を後日加筆します)。今回のオーケストレーションは、1と2の統一感が見事だった。とはいえ2のサウンドには、原曲メロディにある「ノリ感」あるいは「高揚感」が染み出しており、統一感の中に、その「1と2にあるサウンドコンセプトの差」を感じられたのは嬉しかった。

おわりに

 ウィザードリィは「古典」である。とはいえ、ファンタジーとして単純な英雄譚ではないことから「王道」とは少し外れる。一方で、明確な一人の主人公をもたないことゆえに「叙事詩的」でもある。一人ひとりがスペシャリティを持つ冒険者パーティの地下迷宮を闊歩する様は、さながら各楽器のエキスパートが巧みな連携で1つのステージを完成させていく室内管弦楽団のようでもある。

 NJBP Live! #12 にご出演のアーティストのみなさま、すばらしい演奏でした。再演の機会を楽しみにしております。FC版WIZ3、そしてSFC版5も機会をみてプログラムしていただければユーザーとして望外の喜びです。

text by ozakikazuyuki mailtwitter


新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団が送る室内管弦楽公演シリーズ
第50回主催公演
(チラシの表記は第50回、パンフレットの表記は第45回)
NJBP Live! #12 「ウィザードリィ1,2」全曲演奏管弦楽コンサート

作曲 羽田健太郎
管弦楽編曲 羽田二十八
演奏 新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団
日程 2019年12月8日 19:00開演
会場 北とぴあ つつじホール