コンサート感想|現代音楽コンサート「NODUS vol.2 -谺する息吹-」 [2019.9.16]

2019.12.10


コンサートロゴ:〈NODUS公式Webサイトより〉

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はじめに


 9月16日、作曲家グループ「NODUS」の第2回公演を拝聴した。私が秋口から本番日の到来を楽しみにしていたコンサートである。開幕演奏のホリガーの木管五重奏作品と、締めのプーランクの六重奏作品でサンドイッチにする形で、各管楽器の独奏のための書き下ろしの新作が披露されるプログラムである。楽しみすぎて鼻血が出るといったら、大げさだろうか。ピアノ伴奏付きが3曲、無伴奏が2曲(厳密には注釈を要するが、ここでは省く)。中間5曲は世界初演である。私が新作初演を楽しむときは、細かいことを気にしない。白紙に自由にメモした印象がすべて。1度きりの新作初演。1回だけの第一印象。正解も誤答もないであろうと思っている。

演奏作品への第一印象

1

ハインツ・ホリガー
木管五重奏のための”h” (1968)
日本初演

Conductor 浦部 雪 / Flute 木ノ脇 道元 / Oboe 荒木 奏美 /
Clarinet 福島 広之 / Bassoon 中川 日出鷹 /
Horn 庄司 雄大 / Piano 増田 達斗

「夜の森は案外騒がしい」――私は本作からそのような印象を受けた。夜のサファリパーク、あるいはNight Zoo。指揮があることで、観客側にも4、3、6拍の変わり目がわかりやすく、また聴きやすい作品だった。指揮が停止してからの全員での一斉のCadenzのように思えた演出的表現には「すごみ」を感じた。

2

増田達斗
みだれ
(Horn 庄司雄大 / Piano 増田達斗)
世界初演

 まるで「一人交響詩」である。角笛一本で何か遠望な情景の中で叙事詩を語り紡ぐようであった。ミニマル、ただしミニマルミュージックではなく編成がミニマルかつプリミティブという意味でのミニマルである。ミニマルであるからこそ可能な広大な視界と、壮大な孤独が表現されているように感じた。物語性があるようであり、しかしその物語は聴衆が自由に考えていいような広さと白紙を持っている。

3

石川潤
リトル・モンスターズ
(Clarinet 福島広之)
世界初演

 悪夢は繰り返す。繰り返し見る悪夢。夢魔によって人間の記憶――それは「思い出」とも呼ばれる――が侵食され、足元から頭上から両脇から、その視界の端から崩れていく。夢というのはそもそも形がなく、ハリボテの書き割りの世界である。壊れていくにしても、その先には何もないか、あるいはあっても大したものはないというのが悪夢の真相だ。だがそれが無限に繰り返されるとしたらどうだろう。

 譜めくりの音を楽曲の一部としているのが極めて印象的であった。楽曲をiPadで表示させれば譜めくりは無音、かつ画面が光源にもなる昨今、「譜めくりにわざと大きな音が出る仕組み」を仕込んで「バサ」「バサ」「バサ」とポルターガイストのように現れては消える「譜めくりの音」は斬新だ。

 バスクラリネット独奏曲である。珍しい。だが演出がそれ以上に独特であった。演奏前に客席も舞台も完全暗転し、演奏者がヘッドライトを装着して演奏するという奇妙なスタイルでの演奏だが、その意図が徐々に納得いく構成となっており面白い。無伴奏かと思いきや、舞台の陰からピアノ奏者が現れ、少しばかり演奏に参加し、また床にかがんで去って行ったのも〝怪奇的〟な本作にマッチしていた。

4

渡部真理子
Divertissement
(Oboe 荒木奏美 / Piano 増田達斗)
世界初演

 オーボエ奏者荒木氏の演奏がまさに鬼気迫る演奏であった。1曲目のホリガーの五重奏曲での活躍も含めて、本日のMVPではないか。この曲での鬼気迫りっぷりは「3000万円貢いだホストが***なので、今から殺します」とでもいえそうな情念の溢れる見事な熱演だった。重音からのハイトーンへの展開など、技巧においても度肝を抜かれた。抜群であった。

5

辻田絢菜
CollectionismⅩⅢ/Pandemonium “百鬼夜行”
(Bassoon 中川日出鷹 / Piano 増田達斗)
世界初演

 本日の他の作品ではまったく感じられなかった光輝(あるいは文字通りの「キラキラ感」)に溢れた作品であった。今回の公演の他の作品では伴奏とソロが「対立軸」を取っているケースが多いように感じられたが、本作はそれらと異なり、ソロがプライマリとなり、伴奏がセカンダリとして相互補完的、まさに「伴奏」があるがゆえの構造的な美が魅力的だった。ラストは無音の中、おずおずと奏者が両手を広げる。何事かと客席は固唾を飲んで見守る。「二拍手」という意外性。その瞬間まで引き込まれる演奏だった。

 キッチンペーパーのような紙フィルターを使って楽器の表現を「拡張」するなどの手法を取り入れているが、現代作品として「無茶な感じ」がなく、親しみさえ感じる。テーマは日本的であるのに、特定の文化の範疇を超え、日本でもヨーロッパでもない「無国籍感」さえも感じられるユニバーサルな楽曲であったように感じる。

6

青柿将大
Radius
(Flute 木ノ脇道元)
世界初演

 本作品からは、あたかも「私はこのように生まれ、生き、生き、そして死んだ」と語られる一人称視点の私小説を音楽で語った作品のように感じた。

7

フランシス・プーランク
六重奏曲 (1932/1939)

 川崎から京浜工業地帯の夜景クルーズをしているうちに夢と現実がないまぜとなり、気づけば多摩川を上流へ上流へと遡上し、目覚めたのは春の河川敷であったようなイメージを不思議と思い描いた作品だった。

 パンフレットは何やら文字が多い。あとで目を通してみよう。第一印象とはまた違った視点で作品を振り返ることができるかもしれない。

[追記]

 YouTubeで作品が公開されているらしい。冬の午後、あるいは今夜のお供に、この音も楽しんでみてはいかがだろうか。すでに本記事を読んでしまったあなたは、私が感じた第一印象という前情報をインプットされてしまってお気の毒ではあるが、きっと楽しめるだろう。異なる種類の第一印象をもったら、ぜひその旨、紹介していただいたい。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLo2mO1IEBjTfsOJ3Ae5RNFC71_tfGMnLn

[追記 2]

「あなたが今すぐ現代音楽の新曲初演コンサートに足を運ぶべき3つの理由」という試論を「はじめに、の代わりに」としてコラム的に置こうと思っていたが、これは掲載の機を改めることにした。


「NODUS vol.2 -谺する息吹-」
日程 2019年9月16日(月・祝)18:00 開演(17:30 開場)
会場 トーキョーコンサーツ・ラボ https://tocon-lab.com/
入場料 一般3000円・学生2000円(当日券それぞれ500円増し)

〈プログラム〉

* 世界初演

ハインツ・ホリガー
木管五重奏のための“h” (1968)
日本初演
Conductor 浦部 雪 / Flute 木ノ脇 道元 / Oboe 荒木 奏美 /
Clarinet 福島 広之 / Bassoon 中川 日出鷹 /
Horn 庄司 雄大 / Piano 増田 達斗

増田達斗
みだれ *
(Horn 庄司雄大 / Piano 増田達斗)

石川潤
リトル・モンスターズ *
(Clarinet 福島広之)

渡部真理子
Divertissement *
(Oboe 荒木奏美 / Piano 増田達斗)

 休憩

辻田絢菜
CollectionismⅩⅢ/Pandemonium “百鬼夜行” *
(Bassoon 中川日出鷹 / Piano 増田達斗)

青柿将大
Radius *
(Flute 木ノ脇道元)

フランシス・プーランク
六重奏曲 (1932/1939)

〈演奏〉
フルート 木ノ脇 道元
オーボエ 荒木 奏美
クラリネット 福島 広之
ファゴット 中川 日出鷹
ホルン 庄司 雄大
ピアノ 増田 達斗
指揮 浦部 雪

お問い合わせ nodus2010@gmail.com
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