コンサート所感|「つんてっと(Tsuntet)」2nd Live

2018.11.25

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Tsuntet公式サイトより)

海を渡る風を感じるアンサンブル

 篠笛・チェロ・ピアノ・作曲家のグループ「つんてっと(Tsuntet)」のライブを鑑賞。篠笛への個人的な先入観といえば、やはり「祭囃子」における主役楽器。そして祭囃子といえば「夜(宵)」。ゆえに筆者は、篠笛を「ハレの日」という非日常空間における、「夜」という別世界的時間を演出する楽器だと感じていたし、事実そうであろうと思う。

 だが今回、筆者が感じたTsuntetのサウンドにおいては、そうした「夜」の「暗さ(昏さ)」だとか、「闇中の秘めごと」的な雰囲気は希薄であった。むしろ涼しい爽快感を感じた。快晴の空をバックにした彼らのアーティスト写真のイメージが刷り込まれてそう感じたのかもしれないが、それだけではなく、実際の彼らの演奏や楽曲、あるいはその背景にある「音楽性」自体がそうなのだろう感じる。

 筆者のみならず他の観客も同様の感想を持ったならば、彼らのアーティストイメージと楽曲/演奏のイメージが一致していることになる。それはTsuntet自身によるすぐれたプロデュースの賜物だろう。筆者のその印象を決定づけたのは開幕曲の上水樽 力氏の作品《Above the Horizon》だった。楽曲名が示すHorizonについて筆者は、地平線よりも「大海原の遠くの水平線」を連想させた。楽曲がそう思わせる爽快さに満ちている。さえぎるものがない風が、自由に吹き抜けていく感じである。彼らの前途もまた、そうして開かれていると確信している。

民謡を素材としつつも絶対音楽として完成

 続く楽曲は上水樽 力氏の《アイルランド伝統音楽による二つのパラフレーズ》。随分とアカデミック的な曲名であるが、演者によるとグループ内では「ケルト」というコードネームで呼ばれていたらしい。ケルト音楽をモチーフとしつつも、日本的、つまり鰹節のダシの香りのする、〝うま味〟のあるケルティックであった。日本的な「ハレの日の昼間」のような屈託のなさである。アイルランドと日本は緯度が違う。強いて言えば北海道に近い。ゆえに太陽の感じ方も雲も空も違う。この《パラフレーズ》が描く陽光は強いが、涼しげで心地よい〝小春日〟を感じるものだと筆者は感じた。日本は島国だが、山岳の国でもある。前曲の大海原から一気に高い場所へ跳び、眺望〈Vista〉の広さを感じるような清々しさを受けたことも添えておく。

* パラフレーズ paraphrase(名詞)
① 原文の語句を別のやさしい言葉に置き換えること。敷衍(ふえん)。意訳。
② ある楽曲を他の楽器の演奏用などに変形・編曲すること。また,その曲。敷衍曲。改編曲。

 初演の《日本民謡によるコンポジションII》は作曲家・辻田絢菜氏の新作。対旋律の工夫はさすが。お見事。かといって「素材(民謡)をこねくり回して小難しくした」ような作品ではなく、聴衆は心地よい器楽芸術として再解釈(あるいは「再作曲」)された民謡を楽しめる。民謡をモチーフとする完全な新作であり、タイトルの通りコンポジション(作曲)であるが、本作品には素材を生かすアレンジメントの美学・美意識が漂う良作だった。

 今回のプログラムの各作品の共通点として筆者の感じたことがひとつある。どの作品も、具体的な標題が付与されたり、民謡から題材を採用していたりしている。ゆえに観客はその楽曲の共通認識を持ちやすく、さらに民謡であれば歌詞のイメージを持って聴き始めることができる。これがTsuntet作品の巧みなところなのか、曲の半ばを過ぎると、しだいにそうした元の曲のイメージや標題性が薄れ、絶対音楽的な印象が強くなる。日本人の誰もが知る素材を使い、まったく新しい音楽作品の造形で観客に提示するコンポジションである。もちろん演奏の良さも理由だろうが、ここは作曲者のセンスと技法によるところが大きいと筆者は考える。

能管が呼び出すポルターガイスト

 本公演の白眉は辻田絢菜氏の新作《ポルターガイスト》。家の中の物を動かしたり壊したりして住人を震え上がらせる「騒がしいお化け(騒霊)」のタイトルの通り、冒頭から尖った奏法が観客を驚かせる。もちろん奏法自体は馴染みの〝現代奏法〟だが、曲想とのマッチングがよい。篠笛から能管に持ち替えられて、お化けが現前する。

 ポルターガイスト現象における迷惑行為も、騒霊の側にとっては悪戯であり、あくまで遊び。おどろおどろしい奏法も、逆説的な諧謔として響く。辻田氏が召喚した騒霊は、どうやらお調子者のお化けらしい。人間には姿の見えないお化けが、作曲者本人がオフステージで演奏する小型ラチェットやニコチャンハンマー(振ると音が出る幼児用玩具)の音で表現され、お化けの笑い声が周囲を飛び回る。もしお化けの姿が見えたのなら、それは白いシーツをかぶって、真っ赤な舌で人間に「あっかんべー」をしながら、笑い転げ、駆け回っているに違いない。そんな楽しげな印象を受けた。

 楽曲の中間部でチェロのオスティナート風のフレーズを経ると、十分に暴れまわった騒霊は、ついに狭い室内から月下の大気へと飛び出たようだ。風に揺れる柳の枝の隙間をすり抜け、さめた11月の宵の空を飛び回る。柳といえば「花札」においては11月のシンボル。辻田氏が描く11月の騒霊はこうして曲の後半、ちょっとメランコリックになったり、能管の呼び出しに応じて姿を現したりつつ飛び回るが、月夜の宙空で不意に姿を消してしまう。初めから存在したのかどうか、それさえもあやふやに感じるほど唐突に。

 空っぽな空間だけが後に残される。騒霊の悪戯は幻だったのか、それとも…? という具合だ。能において能管によって呼び出される「この世ならざるもの」は怨念やら悪霊やらといったものだが、辻田氏が能管で呼び出した「霊」はユーモラス。この曲みたいな騒霊はちょっと愉快なお化けなのかもしれない。

日本発・世界を旅するアンサンブルへ期待を込めて

 パンフレットによると、Tsuntetは日本国内で演奏活動を重ねているそうだ。ぜひ〝日本の伝統芸能をアレンジして紹介する大使〟のようなポジションで海外ツアーを展開してほしい。日本の芸術家を海外に紹介する組織機関の支援のもと、米中露仏独伊蘭英にはじまり、できればマレーシアやシンガポール、インド、UAE、エジプトのような国々にもそのハイブリッドサウンドを響かせてほしい。

 ゆくゆくは、ヨーヨー・マのシルクロードアンサンブルのような活躍を筆者はTsuntetに期待している。ヨーロッパ音楽の様式と日本発サウンドを再構築するグループとして、これからもTsuntetを応援したい。


Tsuntet -Second Live-
日時:2018年11月25日(日)14:30開演(14:00開場)
場所:やなか音楽ホール

プログラム:
「日本民謡によるコンポジション(2017)」 辻田 絢菜/作曲
「アイルランド伝統音楽による二つのパラフレーズ(2017)」 上水樽 力/作曲
「Above the Horizon (2017)」 上水樽 力/作曲
「日本民謡によるコンポジションII (2018)」 辻田 絢菜/作曲 World Premiere
「ポルターガイスト (2018)」 辻田 絢菜/作曲 World Premiere
「アイルランド伝統音楽によるパラフレーズ Ⅲ. (2018)」 上水樽 力/作曲 World Premiere

出演:
篠笛 正田 温子
チェロ 成田 七海
ピアノ/作曲 上水樽 力
作曲 辻田 絢菜

チケット:一般3000円/学生2500円 (当日+500円)
お問い合わせ先:tsuntet@gmail.com
後援団体:
東京藝術大学同声会
東京藝術大学音楽学部附属音楽高校響親会
全日本ピアノ指導者協会