2018.4.16
加筆 2019.7.4
『ダンジョン飯』6巻を読みました。異色グルメ漫画として登場した本作ですが、深層のテーマが「生と死」であることはもはや明らか。食い道楽ファンタジーではなく「いのち」の物語になってきた。現代人は自分たちも食物連鎖と生態系に連なる存在であることを忘れがちなことに気づく。メメントモリ。
イヅツミちゃんの通り名である「アセビ」は「あしび(馬酔木)」。シュロー取り巻きはマイヅル(舞鶴天南星 訂正 舞鶴草(『ワールドガイド』42頁)、イヌタデ、ベニチドリ、ヒエン(=デルフィニウム)というように、植物(花)の名前を「通り名」に使っている。しかも、いずれの植物にも、動物の名前が含まれている。
マイヅル=鶴
イヌタデ=犬
ベニチドリ=千鳥(チドリ)※ベニチドリという鳥はいない。
ヒエン=燕(つばめ)※飛燕で飛ぶツバメの意味もある。
アセビ=馬
パーティリーダーである俊朗も、ライオスたちに「シュロー」と呼ばれている。ヤシ科の木である「棕櫚(しゅろ)」との関連性を指摘できるだろう。
しかし、なぜ「馬酔木」のより一般的な読み方である「あしび」ではなく、「アセビ」と読ませているのだろうか。「アセビ」に、他に隠された意味はないだろうか? 言葉を分解して考えてみた。「アセ」には「吾兄(あせ)」という古語がある。二人称であり、女性が男性に親しみを込めて呼ぶときに使われる。現代語でいえば「あなた」に相当する言葉だ。一方で「セビ」という日本語の名詞はない。(「せびる」という動詞はある。意:無理にねだる)
もし「アセビ」に「吾兄」が隠されているならば、アセビ(イヅツミ)に一体化している動物は、彼女の「兄」に相当するような動物(猫)だった可能性も考えられる。「ビ」は「尾」だろうか。となると、「吾兄+尾」=アセビとなる。親しき男性の尾。ここにも猫が見え隠れする。(隠れているという点もイヅツミにおいて、意味のある部分だ)
シュローパーティのメンバーのそれぞれの通り名について、それぞれ花言葉を整理してみると、次の通り。
シュロ(棕櫚)「勝利」「 不変の友情」「祝賀」「戦勝」
マイヅル(舞鶴天南星 訂正 舞鶴草(『ワールドガイド』42頁)「あるがまま」 「清純な少女の面影」
アセビ(馬酔木)「犠牲」「献身」「あなたと二人で旅をしましょう」
イヌタデ(犬蓼)「あなたの役に立ちたい」
ヒエン(飛燕草)「清明」「高貴」
ベニチドリ(紅千鳥)「忠義」「高潔」
シュロの花言葉「不変の友情」にはライオスとの深い友情、勝利や祝賀には、最終的にファリンへの愛が成就することの伏線だろうか。アセビの花言葉「あなたと二人で旅をしましょう」は、ひょっとしたら彼女がケモノと人間を混ぜたキャラクターであることの暗示かもしれない。
アセビの本名「イヅツミ」は興味深いネーミングだ。由来を日本の神名の構成に強引に当てはめるとイヅは「出る」、ツは上下の語を繋ぐ格助詞、ミは神格を示す接尾辞で女性。「何かを出現させる女神」と解釈できる。鬼が出るか蛇が出るか。両方か。
また、「ミ」は、「キ(またはギ)」と対をなす(イザナギ・イザナミのように)。したがって、イヅツミの分離が成功した場合、人間女性のイヅツミと、オス猫のイリツキに分離されるのではなかろうか。イリ(入(い)る)は、イヅ(出(い)づ)と対をなす。
その神の能力や性格を表す語
+
上の語と下の語をつなぐ格助詞
(ノ・ツ・ナ)
+
その神の神格を示す接尾辞
ヒコ・ヒメ
ヲ・メ
キ(ギ)・ミ
ヒ(霊力を示す接尾辞)
チ
※ヒコ・ヒメ、ヲ・メ、キ・ミは雌雄を示す対の語
また接頭辞「オホ」がある場合、それは「偉大な」を意味する
あるいはイヅツミの「イヅ」が本来「イツ」で「イツツミ」だったが、1つめのツが濁って「イヅツミ」となったとも考えられる。この場合、「イツ」は数字の五を表すので、パーティの五人目のメンバーであることを暗示しているとこじつけることもできる。
〈おわり〉